症状編~認知症~
今回は、訪問鍼灸マッサージにおいて高頻度で見かける、認知症について見ていきます。
同じ認知症といっても、発生機序によって症状は異なります。ここでは、実際にあった事例を紹介しながら、どのようなものがあるか確認していきましょう。
〇一見、認知症とわからない
中には、流暢に会話をし、会話の内容にも齟齬がなく自然とお話しできる方もいらっしゃいます。故に、事前に認知症と聞いていたものの、話してみると全く症状がないように感じることもあります。
ただ、何回かお会いしていく内に、時間や曜日の感覚が曖昧だったり、約束の時間を忘れたり、短期記憶がもたなかったり、といったことが目立ってきます。
〇症状に落差がある
日によって症状に大きな波がある場合があります。これは脳血管型認知症に顕著で、調子が良い時は会話も行動も異常なく、短期記憶も保たれています。逆に調子が悪い日は、まるで別人かと思うほど状態が落ちることがあります。
〇常に傾眠傾向
日常をずっと車椅子で過ごされる方などに多いパターンです。お身体を動かすことがないので、常にうとうと、或いはぼんやりとされています。
注意力や認識力の低下が大きく、誤食や誤嚥に気を付けなければいけません。手が届く範囲には口の中に入りそうな固形物は置かないなど、対応が必要です。
〇認知症状は強いが自力歩行が十分可能
このケースは、「ひとり歩き」を注意しなければいけません。帰り道がわからなくなって迷子になり、電車で二駅先辺りで保護されたり、間違えて公共交通機関に乗ってしまったりという事例があります。下肢筋力や体力が十分ありアクティブなのは良いことですが、それが却ってご家族様の不安要素を大きくしてしまいます。
私たちが直接介入できることは少ないかもしれませんが、一人にしない、目を離さない、内側から鍵をかける、といった対策が考えられます。
〇幻覚、幻聴症状
レビー小体型認知症で見られる症状です。私も担当した患者様にどのような感じかお尋ねしたことがありますが、本当にリアルに見えるそうです。幻覚だと頭ではわかっていても、疑いたくなるほど現実感があるのだそうです。
パーキンソン病の方も、同じメカニズムで症状が散見されます。
〇自制力の低下
これまでと比べて短絡的になる、過食になるといった変化や、さらには悪化すると窃盗や暴力など反社会的な行動が目立つようになるケースがあります。これはピック病の特徴で、前頭葉や側頭葉が萎縮するため起こるとされています。アルツハイマー型認知症などと比べ、記憶力は比較的保たれる傾向にあります。
今まで穏やかだった人が急に情緒不安定になったり暴力的になったり、人格に急激な変化が見られたりした場合は、ピック病の可能性も考慮する必要があるでしょう。
さて、上記を踏まえ、私たちが実際に認知症の方を施術をする際に、気を付けたり心掛けたりしたりした方が良いポイントを、いくつか紹介します。ご参考にしてください。
①認知症の方は感情表現がストレートなため、思ったことをそのまま口にされる傾向にあります。「痛い」などと知らせてくれる場合は大変ありがたいですが、中には悪口を言われるケースもあります。その際は私たちも感情的にならず、理解を示すことが大切です。
②上下肢の不随意運動があったり、勝手に動かれたりする場合があります。鍼灸施術の際は特に怪我に注意が必要です。
③日によって感情の上下が激しく、強い拒否が見られる場合も少なくありません。無理に施術を行おうとせず、中止とするのも一つの対応です。
④尿失禁、便失禁が起こりやすい傾向にあるので、お声がけするなど常に意識しておきましょう。
私たちの業界と認知症の患者様は、関わりが深くなると思います。上記の文章が、少しでも皆様の助けになれば幸いです。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。